IVRCとは
IVRC(Interverse Virtual Reality Challenge)とは、学生が企画・制作したインタラクティブ作品の 新規性、技術的チャレンジ、体験のインパクトを競う、VRに関する日本で最も歴史の長い学生コンテスト です。
学部時代、私は学生6名のチームを編成し、ある学生コンペティションに挑戦しました。チームとして6作品を応募した結果、1作品が採択率約25%という狭き門を突破し、書類選考を通過して準決勝へと駒を進めることができました。このプロジェクトにおいて、私は企画の発案からリーダー、ソフトウェア開発、3Dモデリング、そしてユーザー体験のデザインまで、多岐にわたる役割を担当しました。
書類選考通過の喜びも束の間、本番までの準備期間は約2ヶ月しかなく、非常に過酷な道のりでした。スケジュールは極めてタイトで、加えてチームメンバーの中には大学院入試を控えている者もおり、プロジェクトの進行は困難を極めました。
プロジェクトが始まった当初は、各メンバーの本プロジェクトに対する熱意の度合いに差があり、これが原因でチーム内で意見が衝突することも少なくありませんでした。この課題に対し、私はリーダーとして、一人ひとりの状況や特性に合わせたコミュニケーションを心がけました。具体的には、締め切りの設定方法やタスクの伝え方を工夫することで、徐々にチームは円滑に機能し始め、この結果、準決勝では上位半分に入ることができ、決勝進出を果たしました。
しかし、決勝までの準備期間はわずか1ヶ月。さらなる作品の改良は困難を極めました。この時、私はリーダーとして「もっと対立を避け、チームがよりスムーズに、そして主体的に動ける方法はないか」と深く考えました。準決勝までの過程で、私がメンバーのタスクに過度に干渉してしまった場面があり、これがチーム内の無用な対立や一部メンバーのモチベーション低下に繋がったのではないかと反省したからです。
この反省を踏まえ、決勝に向けて以下の施策を実行しました。
- メンバーへの信頼の表明: 決勝に向けたプロジェクトのキックオフで、「皆さんを心から信頼している」というメッセージを明確に伝えました。これにより、メンバーが安心して自身のタスクに集中できる環境を目指しました。
- 均等なタスク配分と権限移譲: チームを信頼することを土台に、準決勝までと比較して、より均等にメンバーへタスクを配分し、それぞれの裁量を尊重するようにしました。
- ポジティブフィードバックの徹底: メンバーの小さな進捗や貢献も見逃さず、積極的に称賛の言葉をかけることを意識しました。これにより、モチベーションの維持と向上を図りました。
- 週次の全体進捗報告会の導入: 毎週、チーム全体で進捗を共有するミーティングを設けました。これにより、タスクの偏りや潜在的な問題点を早期に発見し、迅速に対応できる体制を構築しました。また、この定例ミーティングは、準決勝の準備段階では行っていなかったもので、リーダーである私が各グループの進捗に過度に干渉してしまうことを防ぎ、メンバーが「信頼されていない」と感じるリスクを低減させ、チーム全体のモチベーションを維持する狙いもありました。
これらの工夫が功を奏し、チームの一体感とパフォーマンスは向上。その結果、私たちは決勝で全体3位入賞という輝かしい成果を収めることができました。
この一連の経験を通して、私はチームリーダーとしてのスキルはもちろんのこと、ソフトウェア開発、ゲームデザイン、そして何よりも多様なバックグラウンドを持つ人々と協働するためのコミュニケーションスキルを大きく向上させることができました。この経験は、私にとってかけがえのない財産です。
作品名:次元切断刀
SEEDSTAGE(準決勝)進出時の概要
刀を題材としたゲーム体験は数多く存在し、家庭用ゲーム機によるものだけでなく、近年ではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用いたVR空間内でもそのリアリティを追求する試みが活発化しています。VRならではの没入感は、あたかも自身が刀を振るっているかのような感覚をユーザーに与えますが、その体験の質は多くの要素によって左右されます。
剣を用いたリアルなVR体験に関する先行研究では、フェンシングを対象に、リアルな体験に必要な機能として計11の要素が挙げられています。これらには「エッジ検出」「エッジの整列度合い」「剣先の検出」「物理的な運動に対する反応」といった純粋なトラッキング精度に依存する要素や、「パリー」や「武器の柔らかさ」といったフェンシング特有のものが含まれます。これらのうち、「予想される動きの質」、すなわち刀のリアルな質感をいかに提示するかという点は、既存のゲームや研究においても重要視されてきました。
しかしながら、同じくリアリティへの貢献が期待される「武器の重さ」と「武器と環境との相互作用」という二つの要素については、これまであまり重要視されてこなかった傾向があります。
そこで本作品では、この未開拓な二要素に着目し、これらをVR体験における重要な提示要素として取り入れることで、より現実に近い刀の操作感を実現する新たなVR刀剣体験装置を考案・開発しました。具体的には、ユーザーが武器の重さを感じ、刀がVR空間内の物体と衝突した際の反作用を体験できるような仕組みを導入しています。
本作品は、今までとは異なる観点からVR体験のリアリティを向上させ、ユーザーにより深く、かつ斬新な没入体験を提供することを目指しています。
LEAPSTAGE(決勝)進出時の概要
準決勝段階にて「刀の重さ」と「斬られた対象の挙動」という核心的機能の提示に成功した本VR刀剣体験は、決勝の舞台となった一般展示会「サイエンスアゴラ」に向けて、その内容を大きく進化させました。サイエンスアゴラの来場者には専門家ではない小学生といった子供たちが多く含まれることが予想されたため、単なる技術デモンストレーションから脱却し、誰もが直感的に楽しめる「体験としての質」を最大限に高めることを新たな目標に据えました。
準決勝では、提案していた要素が確実に機能することを示すため、比較的シンプルな構成でデモンストレーションを行いました。しかし決勝では、この技術的基盤の上に、よりエンターテインメント性の高い体験を構築することに注力しました。具体的には、準決勝段階では斬撃を行うと相手が倒れるだけだったシンプルなインタラクションに対し、「暗闇から静かに近づいてくる敵に襲われないように、刀で防衛する」という明確なゲームコンセプトを導入。これにより、体験者に「切られないように反撃する」という能動的な目的意識を持たせ、没入感を深めました。
さらに、体験の質を向上させるため、以下の具体的な改善を行いました。
戦略的な敵の配置とVR酔い対策:
敵の出現方向をプレイヤーの正面だけでなく左右を含む3方向からとし、プレイヤー自身はその場から動かずに対応する仕様にしました。これにより、プレイヤーの移動を伴わないためVR酔いを効果的に防ぎつつ、体験にダイナミックな動きと戦略性をもたらしました。
マンネリ化を防ぐ敵バリエーション:
経過時間に応じて出現する敵の種類や攻撃パターンに変化を加えました。さらに、上記3方向以外の死角から不意に出現する特殊な敵を1種類投入することで、単調さを排除し、常に新鮮な緊張感を維持するよう工夫しました。
幅広い層への配慮とモチベーション向上:
制限時間内に多くの攻撃を受けても体力が尽きにくいバランスに調整し、より多くの体験者が最後までプレイできるよう配慮しました。同時にスコア表示機能を実装することで、プレイヤーの達成感を刺激し、再挑戦へのモチベーションを促しました。
アクセシビリティとリアリティの追求:
体験者の年齢や体力に応じて刀の重さやプレイヤーの攻撃判定範囲を調整できる機能を搭載し、幅広い層が楽しめるようにしました。また、敵が斬られた際のSE(効果音)を自身で作成・実装することで、敵を倒した際のリアリティと爽快感を大幅に向上させました。
攻撃バリエーションの追加:
もともと攻撃パターンはゆっくり引き抜く攻撃しかなかったのですが、準決勝の体験説明時に例として素早い抜刀を見せたところ、そちらの方に興味を持たれる体験者の方が多くいたため、決勝では素早い抜刀を通常攻撃とし、より体験者が楽しめるアクションを目指しました。
これらの多岐にわたる工夫と改善を重ねた結果、サイエンスアゴラでの展示は大盛況となり、子供から大人まで多くの来場者に本VR刀剣体験を心から楽しんでいただくことができました。そして、その成果が高く評価され、本作品はイベント全体で総合3位という栄誉ある賞を受賞するに至りました。この経験は、技術的な挑戦に加え、多様なユーザーの視点に立った「体験デザイン」の重要性を深く認識する貴重な機会となりました。